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zoom RSS いぼの願

<<   作成日時 : 2017/12/09 16:41   >>

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手の甲がなぜか皺だらけで
指も無骨で
醜い
それに右の
親指と人差し指の骨の分かれ目にいぼがあって
気になって
なんども爪で引っ掻いてとろうとして
そんなことではもちろんとれなくて
いぼの表面はかえって傷ついてボツボツになって
よけいに醜くなってしまう

幼いぼくの手はきっとだれよりも
ゴツゴツして
たしかに踏みつけられた切り株みたいで
白魚には程遠くて
ヒトまえに晒すのだけは避けたかった

ある日
空の一斗缶に薪をくべて
おしゃべりに興じていたオトナたちに混じって
暖をとっていたとき

いぼをとるにはよ
お寺の庭で小石を見つけて
それでいぼをこすって
その石を真夜中に四つ辻のまんまんなかに
穴を掘って埋めればさ
いつのまにか
いぼはなくなってしまう
かんたんなものさ

ぼくは
立ち上がる煙のすきまから話し手を見上げ
木のはぜる音のまにまに
話しに耳を傾けて

『これならできそうだ』

そう思った

丑の刻参りは知っていて関心はあったが
相手を消去するよりも
むしろ当のこのぼくが
この場から
この時から
煙になって広がり上り
やがて薄れて灰色の雲にとけていくのがお似合いで
さすがにやる気にはなれなくて

けれどもこれなら

『やってみようかしら』

いまの子なら
いぼなんてクリニックであっというまにとってもらうことができて
占いにしてもせせら笑われるか
せめて占いの由来に興味をもたれるのがおちだけど
あのころは時の流れはゆったりしていて
遠い時もすぐに背後から押し寄せてきた

話しことばや書きことばでイメージをこね回し
なにか新たなことをするときは
つい衝動に身を任せるときだって
深淵を覗く
あの吸いこまれていきそうなめまいに見舞われて
おろおろと
おそるおそると
おっかなびっくり
一歩を踏み出したものだった




ぼくの家とおなじ通りのはずれに
おじいちゃんは隠居していて
めったに行くことはなかったが

絵とか習字とかで賞状をもらったとき
良い点数のテストをかえしてもらったとき
おじいちゃんに見せに行くと
頭をなでられて
ほめられて
お小遣いをもらえて

それは数少ない心逸る一歩だった

おばあゃんは後妻で
ほとんど記憶にはないが
ぼくの両親は毛嫌いしていた
なんらかの確執があったのか

だから
とうぜん
おばあちゃんもぼくの両親を嫌っていたにちがいない

まだ暗い冬の朝方におじいちゃんは亡くなった
かけ蒲団の真ん中を紐で結わえて天井に吊って
山を作って
顔には白い布がかかっていた

おばあちゃんはどうしたのだろうか
あれ以来
あの家はずっと雨戸はしまったままでひっそりとしていた

その後
よくないことが続いた
母はぼくを前にして指折り数えた

ぼくは肺を病んで入院した
商売は左前なってきて
裏の工場にはヒトの出入りはなくなって騒音もなくなって
父は選挙に出て落ちた
借金取りの怒声が響いた
家のあちこちに赤い紙きれが貼られた
母は泣いた

そして涙のかれないまに
母は占い師に頼った

母が家をたずねると占い師が血相を変えてとんできて

『いま床の間の刀の鍔がカチンとなった』

母の用向きも訊かずに叫んだという

占いのお告げは
生霊
その祟り

『隠居の庭の柳の木の下を掘ってみなさい』

両親が掘ってみると
恨み言を書きしるした紙切れが出てきたという

占い師の戸口から
あるいはおじいちゃんの死んだときから
すでにこしらえられた夢だったのだろうと今では思う
母が紡いだのか
ぼくが描いたのか
あるいは他のだれかが面白半分に流布させたのか
それすらも曖昧で

けれども
たとえ出処がどこでも
生霊の
そのことばの放つ
じわじわと身を蝕む凄まじさは
ずっと
まとわりついていたものだった




山に向かう舗装されていない四つ角へ

夜の部の映画を見終わって
映画は二本立てか三本立てかで
いつも終わるのは深夜に及んで

ぼくは小さい真新しいスコップを隠しもって
家とは反対の山側にむかって坂道をのぼった

昼間の雨はすっかりあがって凍った月が出ていた

しばらくのぼると十字路に出た
左右の道は下りで
中央の道はさらに上りで

あちこちの水たまりは割れた鏡になって星を散りばめていた

ぼくは屈んで道のまんなかをスコップで掘る
地面は湿っていて
すぐ漆黒の穴ができる
ぼくはその穴から目をそらす

ふくろうが急に呼びかけてくる
ススキが手招きする

ぼくはお寺で拾ってきた小石をポケットから出す

くぼんだ目と口
せりあがった鼻と頬骨
小石にはヒトが
生霊が
のりうつっているようにみえる

ぼくの手はかじかんでいるのに
冷や汗がひとすじ
下着を濡らすのを感じる

ぼくは急いで小石を穴に放り投げる
そして立ち上がって靴で深淵に土をかけて平らにする

それから急いで坂道を下る
映画館はすでに灯りは消えて
帰りを急ぐヒトもみあたらない

ぼくは月を眺めながら走る
足音の変わる橋を渡る
渡りきる

月は意地悪で
ぼくは走っているのではなく
地面が建物が背後に退いているにすぎないんだよって
青い光でぼくにささやく

ぼくはたまらなくて耳を塞いでいると
いつか
退いていた道路が急にそそり立つ
行く手を遮る
そして今度こそ月は後退する
おバカさんっていい残して

すると
ぼくはしたたかに転倒していることに気づく
右肘と右膝が地面をうつ
それから全身がバウンドして
左手に持っていたスコップが右手をつき刺す

そう
ちょうど
いぼを直撃するかたちで

たまたまであったのか
故意であったのか
それは今でも藪のなかだ

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