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<<   作成日時 : 2018/02/27 14:29   >>

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一 雑踏 

壁と壁のすきまに投げ出されたビニ−ル袋が
背後からの突風にあおられて道路に吐きだされ
女の目のまえに転がってきて
女の行く手をとざす

女は
それを朽ちかけた有機物にみたて
取り乱して
しゃがみこみ
抱きしめて
盾になり
矛になり
無関心な雑踏をにらむ

男は
貯えもなく仕事もなく
行くあてもなくて
その日暮らしで
ほんの少しだけ雑踏に溶けこんで
女に
親近感をいだき
矛盾をほどく

女は
ふとわれに返って
冷たくなって
もう無機物に化した
瓦礫を
ゴミを
得体のしれない雑踏を
つきはなして
心をすっかり空にしてゆらりと立ち上がり
アリバイを崩す

男は
くたびれ果てて
投げやりになっていても
男のわきをすりぬけて遠ざかる女の後ろ姿を目で追う
そして
無関心の網を透かして手をさし伸べようとする
真冬の夕方の白い息を混じりあわせようとする

けれども
女の輪郭はとぎれがちになり
短い曲線と直線とになって
たちまち
無数の点になり
ネオンにとび散り
影の山にすがりつく

男は
自販機に小銭をいれる
ガチャンとすきっ腹に響く音が
いつか
とび込んだ電車のレールの軋り音に共鳴して
うつらうつらして
終着駅で乗りかえて
また乗りかえて
時間の感覚は麻痺して
大きくあくびをしてから
さびれたとある駅で降りる

この切符はどこにおいたらいいのかしら

無人駅で
待合室にはヒト気はなくて
うろうろしていると
曇りガラスにうつった女の目が
告げてくれる

いいの
ちぎって捨ててしまえば
どこから来てどこへ行くのかなんて
だれにもわかりはしない

男は
明滅する女にうなずく

女は
暗いショ−ウィンドウを横切り
二階建てのアパ−トの錆びた裸の階段をまえにする
廊下の蛍光灯が点いたり消えたりしている
夜間飛行の準備のよう
そうだったら
あたしどこへ行こうかしら

男も女も
寂しさをかこっている
だから
じっとしていられない

男は今夜のねぐらを探して見知らぬ町をさまよい
女はタラップを上がり自室のドアを開け玄関の電灯をつける

再開の
あるかないかの期待をこめて


二 孤独

再開はドラマチックで
わざとらしくて
不自然で

たとえば
男は廃校をたずねて保健室に忍びこむ
マットレスのないベッド
朽ちかけた椅子
あけ放ったからっぽの薬品庫
今夜はここで一夜を明かそう
なんとか寒さはしのげそうだ

男は楽天的だ

オレは
ずっとずっと辛いことや悲しいことに耐えてきた
だから
いつだって
どこでだって
だれよりも傷みをはねのけることができる

夜はまだながい
このまま寝入るのはなんだから
いっそ
退屈しのぎに散策でもしてみよう

女は
シャワ−を浴びる
41度で
頭と顔をもみくちゃにして
胸をなでまわしわきの下をすくい上げ
お腹から付け根の茂みをこすり
脚へ
それから向きをかえて
背中からお尻へ

ついでにうがいもする

排水口の銀色のふたに髪の毛とセータ−の毛玉と
細長い草が引っかかっている

草地なんて歩いたかしら

ああ
男があたしを山になぞらえた
そのせいね

女は自分の叢を手のひらでつつむ

火を消さなくちゃ
そう思いながら
女は風呂場を出てレンジの火をつける

男は
廃校の裏山に向かう
木々の間の細い坂道を一歩一歩のぼる
しぜんに鼻歌が出てくる

『山には山の憂いあり海には海の悲しみや』

やがて目の前の空間が広がる
満天の星をあびた
黒々とした楕円形の沼が
悪魔の口のように開いている

男は浮かれて近くの小石を拾う

女は
お湯を沸かしたからって
お茶やコ−ヒ−を飲むわけではない
眠れない夜が続いているから
処方された眠剤も効き目をなくしてきているから
寒さをしのぐ白湯を飲む
飲みながら

出かけよう

ふと衝動的に思う
ドアを開ける
頭上の蛍光管は相変わらず不規則な点滅を続けている

『夜間飛行』

女はコンクリの通路に横たわる
冷たくはない
浮き浮きしてくる
たちまち
アパ−トは飛行体になって飛び立つ

そしていつか
着地する
そう
荒れたグラウンドに

けれどもそこはグラウンドではなかった

男は
小石を沼に投げる
水音が妙に高くひびく

女は
泥だらけの沼の底でよろけながら立ち上がり
両手を平泳ぎにして
カエルの卵の無数の目のつらなる雑踏の膜を破って
水面に出る

男と女は再会を果たす


三 時の時

女は
沼を出てもまだ足元は泥に沈む
両手でバランスをとってなんとか固い路に出る

男は
投げた小石が
女に変身して浮き上がってきたことを知る
対峙して
口ごもる

『ずっと前に会ったよね』

今日
昨日
それとも何年か前

それは外に洩れたのか
声帯の奥の胸にただ滞っていただけなのか
男は遡及する
ねばねばした痰や汚泥をおしのけて

女は
渇望じみた
肉欲じみたものが手を引っぱるのを覚える
その先には黒い尖った梢に降る星々がきらめいて

男は
女の目の先の星をつかもうとする
たったひとつでいい
ふところに入れて眠ればいい夢がみれる
けれども
男はちぎれた夢さえ持っていなくて
思案に暮れて
空から女から目を離し
リアルに生きようと思う

沼のおもてはらせん状に動いているではないか

男は
沼に泥に埋没しようとする

女は
星からおりて梢へ
梢からおりて黒々とした枝へ
そこに透かし見える
落ちそうなStrangeFruit

女は小さくうなずく
濡れた衣服を脱いで千切って結んでロ−プをこしらえる

そのときになって
あのビニ−ル袋ってなんだったのか
男も女も了解する

男の時と女の時はぴったり交叉する
しかしそこにとどまりはしない
山に海に
雑踏に
流れ続ける

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
わあ!大作ですね!
男女の機微と不思議な世界観が鋭いセンスの語調で描かれていて、ああ、これが詩なんだなあと思いました。
なんか間抜けな感想ですみません。
すごい!と思ったことをお伝えしたく。
これからも新作楽しみにしています。失礼しました。
さあや
2018/03/01 11:05
さあや様

コメント、ありがとうございます。
ほんというと、
これ書き終えて、
きっと読む人に不快感をもよおさせるのではないかと
気になっていました。
だから、
いっそうコメントをいただけて、
うれしく思っています。
ひらひらと
2018/03/01 12:44

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