立ちくらみ
書架に本をもどして急に立ち上がったら、
立ちくらみにおそわれたのです。
闇をかきまわす手が、
ときに乱暴にわたしを突きとばしたり、
ときにいたわりをこめてわたしをひき寄せたりするのです。
わたしはされるがままになりながら、
戸惑いながら、
必死に理性をはたらかせるのです。
片付けの済ませていないものはないかと。
消去しなければならないものはないかと。
秘密をきちんと閉じ込めたかと。
いたたまれない羞恥のひとかけらを残してはいないかと。
でもその閃きこそが羞恥なのでしょう。
いましがたふと目にとめた古いうたがよみがえります。
飛び立つ蝶よ待ってくれ
一緒になろう
わたしは花のあるところを知らないから
どうぞ連れていっておくれ
闇が退いていきます。
わたしはゆっくり目を開きます。
書架にはさまれた向かいの壁に絵がかかっています。
正四角形を対角線で四等分した、
灰色と肌色と金色と茶色の三角形のその前面に、
ぐるぐる巻きにした焦げ茶色のロ-プが、
ぶしつけに引っかかっているのです。
さも、
通り抜けてごらんと、
さあ勇気をだしてと、
うそぶいているみたいに。

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