まどろみ
おまえはデッキにたち
胸のところで
片手を小さくふって
シニカルな笑みをもらす
蒸気機関車はゆっくりホ-ムをはなれ
大量の煙をはきだす
あたりは煙まみれになる
推理劇はそこでThe End
さめた意識がはたらいて
この短いデッサンを関係づけようとする
スケッチブックのページを繰って
おまえの痕跡を追う
どれもこれもその場限りで
寄せては返すきらめく波や
無人の館
あるいは
曲がり角から不意に現れるホ-ムレス
季節外れの七夕飾り
暮れる町
そんなものがラフに描かれている
おまえはだれか
物語の端緒はそこにあるのに
波
朝浜辺をさまよえば
口をつく童謡
そこはかとない郷愁
かえることができたなら
かえてしまいたい苦い記憶の連なり
無人の館
いつもしんとして
大正ロマンの香る灰色の医院
その窓の外から足の切断手術を覗き見して
とがめられて
気付いた唐突に
執刀していたのはおまえだ
そして患者は
駅前広場や公園でよくたむろしていたホームレス
波は飛び散る血潮なのか
七夕
牛飼いと織姫
めぐりあい
風にまわりまた逆まわりする短冊
つい目がくらむ
初めての願い
初めての恋
その恋のあいては医院のひとり娘だった
まちがいなく
あの子はいつの間にか消えた
赤い夕日に
あの子と松葉杖をついたホ-ムレスが角を曲がった
どちらも長い髪だった
まるでおいでおいでをしているように
髪がいつまでも壁面にくっついてなびいていた
失意のおまえが汽車に乗る
冷笑はオレに向けたものか
あるいは自嘲だったのか
どちらにしても絶望に薄くはりついた笑いだ
浅いまどろみをふり払う
スケッチブックをとじる
眠れない夜はいつまで続くのか

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