白目
地に足がつかなかった
かかとはくじけて
つま先は蹴り上げるちからをなくし
腰はへたりそうだった
それというのも
おまえの目だ
黒い満月がつりあがって
半月になり
そのまま小さくなって線になり
点になり
やがてまぶたに消えてしまう
白目ばかりが張りつめて
すさまじい怨念の氷雨になって
けむった
白いブラウスに灰色のベストのおまえは
事務机を背にしてオレに話しかけた
机に脚をかけるのはやめなさい
お行儀が悪い
決まりにあるのよ
そういうすわりかたをしてはいけないって
なんなら文書を見せましょうか
オレは知人と向かい合ってのんびり話していた
そこへふと事務机ごとおまえが現れたのだった
そのときからこれは夢だと気づいていた
なんてたわごとだ
地下の倉庫から比喩の衣をまとってかけ上がってきたのだろうか
それにしてもおぞましい
この板張りの部屋も
その口ぶりも
知人も女事務員も
けれども地下の倉庫は埃だらけで散らかし放題で
あちこちひっかきまわしても
なんの糸口すらつかめなかった
おまえが立ち上がった
あやしの姿で
かすかにふるえながら
顎をひいて
ぬめるようにオレを睨みつけた
知人はもういなかった
夢とうつつは黒白のせめぎあいとなって
やがて虹彩は白目にぬめぬめと押し上げられていくのだった
オレは立ちあがった
夜道を走った
何度も何度も後ろを振り返りながら
ふとその目をあげると銀色の月が出ていた
どこまでもオレを追って
それこそが白目だった

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