手にあまる

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小さな手には握りきれない大きなソフトボール
新しくてまだ硬くて
昼休みに運動場で
だれが打ったのかはわかわかりませんが
それがぼくの頭部を直撃して
ぼくは倒れます

その崩れるさまはスローモーションで
心にモノクロできざまれているのです

けれども実は
ぼくはボールをよけているのです
ボールは頬をかすめ背後へとび
まるで銃弾で
父は戦場でその燃える銃弾が頬を焦がしつつも
なんとか一命をとりとめましたが
それは母がお百度参りをしたおかげで
ぼくはいま
父と同じ危うい線上に立っているのです

くるくる回るボール
断定したはずが否定して
食い違いと物忘れを起こし
ふたたび断定し
地面を転がる音がこだまします

事実をつきとめるために
記憶力のすぐれた友人に会っても
かれはこのところテレビをぼんやり眺めているばかりで
問いかけに適切には応えてくれなくて

ぼくは勝手な
平坦な道を選び帰路につき
ぼんやり推し量ります

きっと
ぼくは保健室で目を覚ますのです
頭のひりひりする部分に手をあてると
たんこぶができています
ぼくは気を失っていたのです

あるいは
昼休みのあとの日当たりの悪い教室で
体中に蕁麻疹ができて
前日の夕食のサバにあたったのです
かゆくてかゆくて
その場を離れ
日の当たる運動場へ出たいのです

もしかすると
もうすべてが終わっています
記憶の喪失は時の喪失につながっていて
ぼくはもうぼくではなくなっているのです

いくつもの
思為は
実は
ひびだらけの窓ガラスで
むしろ嘘で
嘘の上塗りで
なんとか平衡を保っているのですが

戸外からソフトボールが直撃し
ひびなどきまぐれで一気に割れて
部屋中に尖ったガラスのかけらが散乱します

人間性という名の

バットに叩かれ飛び
行手を遮る何にでもぶつかりバウンドし
煌めく破片をまとい
ようやく部屋の隅にとどまる
ソフトボールにたわむれつつも

なんとなく
ぼくは終止符を打つべきだと思うのです

認識まで深く入り込み
手に余るソフトボールを拾いあげ
玄関を出て
ぬけるような青空に
思い切り投げます

事実をあからさまにして
苦しみにまみれようと
どんな傷ましい結末をむかえようと
悔いを残しはしない

そんな決意をかためます




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