抑える

台所の板の間で 深夜 正座して 足の裏の かかとはお尻を支えてあからんで つまさきは押しつぶされて白くなって そのうえの 背中はくぼみの暗がりから急峻な坂になる その坂になまめかしく乳房をすりよせても 湿りけすらなくて とっかかりもなくて 近づくものを空回りさせてしまう 坂の突きあたり …
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予見

わたしは柩にされました 切られて倒されて そのまま斜面におきざりにされて また切られて削られて 薄っぺらな板にされて 空き地で日にさらされて また切られて削られて 組みたてられて 意匠をほどこされて 遠い記憶がよみがえってきます 海からせり上がってくる風に 小枝と小枝がきしります 葉っぱは…
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カヨ-

束ねた新聞紙を小脇に抱えて 古いカ-テンとバスタオルを入れたビニ-ル袋を手に持って 玄関をでると 松の枝にとまったカラスが一声鳴いた カヨ- わかってるよ 火曜日だからこうしてゴミを運んでる ゴミ収集庫のふたを開けた えっきょうは さっきのカラスがまた鳴いた カヨ-カヨ-カヨ- きょうは…
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急停車

だらだら食べる かみしめているわけじゃない くつろいでいるわけじゃない ただだらだら きっと おいしく食べているようには見えない まずこの小皿を つぎにこの小鉢を きれいに平らげる ああやっとひとつすんで ふたつすんで ほっとして 食べ残しはしない オレはあまりに貧しくて 小さ…
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木と少女

腰をゆらりと曲げて いくつもの腕を 下げて横にして通せんぼして 上げて伸ばして顔を隠して それでも腕の先の茂った手を幾千の目にして にわか雨で涙をたたえたまま 雲間からでた陽の光にきらきら輝やいて 村はずれの辻の一本の樹木は眺める 幹に寄りかかって まだ立ち去ろうともしない雨宿りの少女を 少女の過…
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定食屋にてふたたび

  食まいり候しあはせのこと。 左の手にてはしをとりあげ右の手にまづもち。 これにみようあり。女房若衆は右にてとるべし。くでん。 さて食椀をとりあげ。 食を一くちまいり。 しるをとりあげ。 みばかりをまづまいりおくなり云々。      (続群書類従巻第五百六十四 飲食部二) おかしい 前のひと …
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定食屋にて

ふと手がとまる 目がとまる 息さえとまる どこかから 何をしているのって 問いかけられてるような気がする 無意味な字面の波のペ-ジに投げ出されたような気がする そこでは 手足をバタバタさせたって もがいたって 文字の切れ端が飛沫になってふりかかってくるだけ それはほんの一瞬で 正面の皿には …
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見つめないで

これはほんとうではない ほんとうからはほど遠い そう思えて口ごもって 話しことばは そのとき吹いてきた潮風にあおられて 語尾が弱々しくゆれて 花びらみたいに散らばるのが分かった きっぱり言いきろうとしていたのか ありえないって打ち消そうとしていたのか それとも 知らないってことをさらけ出そうとして…
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画集

その女が目のまえにいた 「助けて」 息せき切ってそう言った 乱れ髪に雨の雫が光った 土橋を渡っていた女だ 強い風雨のなか すぼめ気味の傘の軸と柄をしっかりにぎって うつむき加減にたどたどしく歩いていた わたしは どうしたのって訊く すると 「どうしたもこうしたもないの」 き…
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むしゃむしゃごくごく

日記だったらどう書くだろう このひとときを きっと事実を淡々と この思いを思いつくままに たとえばこう さくらんぼチュ-ハイを飲みながら からあげクンの赤を楊枝でさして食べながら いつもの端から二番目の石のベンチに腰かけて 足を組んで少し反り気味になって 海からの五月の風をうけてぼんやり なにも考えな…
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オレとぼくと

砂浜の石段を上がった遊歩道の鉄柵によりかかって ぼんやり海を眺めていたら 背後にひとの気配を感じた ふり返った ひっきりなしに車のいきかう通りの向こう側の レストランのまえに ぼくがいた 自称ではなく他称の オレは何度か会って話を交わしたことがあった 髪はみじかい 頭のいびつさが目立つ 目はおど…
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ちんちろりん

                                      (陶萌会作陶展より) ヤツの愚痴をききたい ヤツはいまどこにいるのか これっきりの夜 暗く 高すぎる天井の 古い蛍光灯はじりじり音をたてて ヤツの顔を暗くそめる 旧交をあたためる笑みなんてない 恨みをきざんだ皺は波紋にな…
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ほっ

大きいビニ-ル袋がひとつ 集積所に残っている そこには四角い貼り紙がついている このごみは収集できません 以下のように分別してください 燃えるごみ 危険物 資源ごみ プラスチック類 等々 貼り紙の表の空欄にそれぞれチェックが入っている 帰りに寄ろう そのあいだに このごみを出したひと…
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暇くれた

 いとし殿さに、なぞかけました。  前の田なかの三本杉に、鹿が寝ふしたが、  解きやれや。  殿さ。これを解くならほんまの殿さ、  解かずば、わたしに暇くりやれ。  をんなわらしの、かけたるなんぞ、  解くもはづかし、解かぬもくやし。  おれがようなる大酒飲みと、んな(汝)がようなる、しょ-たれ女、…
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辻占い

火事が 四つ角の信号待ちの ふたり連れの 交わしたおしゃべりのひとつがふわりと近付いて まとわりつく なぜ火事か 推測はつく 何日か前の真夜中に 海を望む民家二軒が全焼してひとり亡くなった それをわたしはひとづてに聞いた 歩いて二三分の ほんのちかくの出来事に 酔ったのでも むせたのでも…
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じれったい

いまにも雨が降りそうで 空は灰色の衣をすっぽり着こんで 裾にいならぶ森や角ばったビルや海すらも びっしり曇らせ オレはつられて 寝不足でしょぼしょぼする目を曇らせ 知り合いに会っても声を曇らせ 口約束を交わしても そんなの虚妄だと心を曇らせる なんてじれったい 息を吹きかけても 手でふり払っても…
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指でなぞって

ふと次の間に気配を感じる いつも男は上には媚び下をさげすむ 上にはきりがあるが下にはきりがない 存在が意識を決定する だから男はその性を責められるいわれはない おおむね嫌われもので 命の値段はとてつもなく安い 書見台のまえで居住まいを正し 休む前の眠気を誘うとるにたらない書を閉じて 立ち上がって…
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落差

少し頭痛がして のどがひりひりして 蒲団から出たくない朝に きのうを思いかえしてみる びっしょりではないけれど 小雨にぬれた 歩くのが面倒で バスがうっとうしくて 自転車にのって 雨が強くなったら カゴの折りたたみ傘をつかえばいい でも 傘をさして自転車を引っぱるのってわずらわしい …
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黒いしずく

なだらかな山は灰色になって遠ざかる そこに覆いかぶさるように あらたな山が黒みをましてあらわれる その数はしだいにふえて 連峰になって 遠近法を駆使して あらわれては遠ざかり消え またあらわれては遠ざかり消える そのうちにも 山は形を変えていく ひとつひとつが急峻になって 裾を狭めて とん…
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苦渋の町

一 今日はお店に泊まっていく 最後の客が帰ると、ママはぽつりと言った。 オレは後片付けもそこそこに、 ドアに鍵をかけて有線放送を止めて照明を消した。 寝酒はいらなかった。 もう飲み過ぎていた。 オレは帰るのが面倒になるとよく二階に泊まった。 でもママと泊まるのははじめてだった。 こたつに敷き蒲団…
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